弊社は私の父の代から始まった下町の工務店、いわゆる町場(マチバ)の工務店です。先代が創業者として、また棟梁として、何人かの大工職人を抱え手間を払い仕事を請け負ってきました。

職人は多少荒っぽいのや、宵越しの銭は持たねぇなんてのもいました。ま、それが粋だったのでしょう。昭和の頃、町には幾つもの工務店や大工がいて、家を建てたり増改築などを施工してきました。

「増改築します」なんて看板は今では考えられないですね。子供が大きくなったので勉強部屋を増築してくれ、なんてオーダーを気軽に受けていたようです。「我が家は隣町の大工に建ててもらったんだよ」なんて、そんなのどかな時代が長く続いたのだと思います。

今や町場の小さな工務店はそのようなニーズから遠ざかってしまったように思えます。棟梁は歳を取り、発注したいオーナーは代替り。大手ハウスメーカーが主導権を握り、小さな工務店は人手不足・後継者問題などを抱えています。そもそも土台が職人で、みな一様に宣伝や自己アピールが苦手です。

かといって職人や施工屋がいないと建築や内装が成立しないのでは!という自負もあります。斬新なショップやモダンな建造物でも、実際にモノを作っているのはそういった職人や施工屋たちが中心だと思います。時代の流れは変わってきても現場の内容はあまり変わってないようであります。あまり、というかほぼ変わっていないです。『商業施設』でも主にデザイナーさんたちの視点による記事が多いと思います。

 

 

今回は施工屋からの視線でとある現場を紹介します。手がけたのは何年か前ですが。千葉県流山市にある東武アーバンパークライン運河駅から徒歩3分の【イタリアンバルBambino】。マンガと嵐の松本潤さん主演のドラマで人気を得た『バンビーノ』の主人公のモデルになった方が、シェフとして独立開業。現場は築50年以上の古い木造アパートの1階、寿司屋が閉店したテナント物件でした。80㎡、約24坪の空間。前の寿司屋が撤退したばかり、なおかつ長年の営業で疲弊した内装が現状でした。オーナーはできるだけ予算をかけずに開業したいと希望でした。

(有)A.C.G.のデザイナー奥山久氏に設計を依頼し、開業のお手伝いをしました。オーナーが低予算でと考えるのは当然で、工事請元側もイニシャルコストを抑えないと店の運営に支障をきたすであろうと危惧があり、計画は難航しました。東京郊外でのイタリアンレストランで24坪はなかなかのキャパシティ。席数はどのくらい取れるのか?人をどれだけ雇うのか?工事請元はオーナー、デザイナー、予算など、バランスをとりたい。最初の見積では大幅にコストが合わず、調整に調整を重ねました。

現状はもともと24坪の寿司屋だけに、厨房スペースが無駄に広く、客席も40席近くあって多すぎるので、縮小して予算を抑えたいとも考えました。基本シェフが一人で厨房を切り盛りするといいます。しかもフルサービスを提供したいとのこと。なんと無謀なことか、と縮小プランと見積を提案しましたが、厨房も客席もすべて使いたいとの要望で、我々は頭をかかえました。スーパーマンでなければ一人では無理でしょう!お店は綺麗にしたい、ほどほどの設備やスペースも使いたい。しかし予算がない!では、どうします?といったところ。開業してから行き詰まっては元も子もないのです。とにかく壊さずに残すところを緻密に考え施工はスタートしました。

施工屋としては疲弊した内装をなるべく排除して綺麗なスペースを作ろうとします。古い木造なので壁が曲がっていたり、柱がいびつであったりするのが耐えられないのです。床も同様です。デザイナーの奥山氏からテクスチャの違う壁や入り組んだ柱など「いいよそのままで。ペンキ塗ればかっこいいよ!」と指示をいただいたのですが、現場施工部隊は汚くてもいいという場面に耐え切れず、なんども「本当にいいのか?」とぶつかり合いました。



デザイナーと施工屋のオーナーへの責任は一枚岩でなくてはいけないのではないか?これでは手抜き工事になってしまうのでは?と悩みました。天井や壁が古いままでよいのでしょうか?しかし、仕上がっていく過程で施工屋のこだわりとは違う部分で、確かに良い空間ができあっていくのが実感できました。



職人たちの一生懸命さと求められている着地点が必ず同じとは限らないことも。施工のファンダメンタルな部分のでコストも大きいです。施工屋のマストが、求められているものと違うときもあるのです。しかし施工屋は「古ぼけたテイストがいいよね」とはなかなか言えません。
言い訳になってしまいますからね。さらに「汚いのがいい感じ。古いのが新しい感じ、くすんだのがオシャレ〜」この辺は工務店の職人が実は理解できないのです、昭和の塗装屋に「荒っぽく仕上げてくれ!」大工に「隙間だらけでフローリングを貼ってくれ」なんて、冗談じゃないよ!!!と怒り出してしまうでしょう。また、令和の世になっても現場の職人は気分がのらないと思います。

商業施設士の仕事~イタリアンバルバンビーノ施工の現場から 後編へ

デザイナー:有限会社A.C.G. 奥山久 http://a-c-g.jp/
撮影:相沢伸也
株式会社木村工務店 代表取締役 木村敦
協同組合日本店装チェーン正会員 http://www.kafco.info/

商業施設士の仕事~イタリアンバルバンビーノ施工の現場から 前編

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